オーナーの皆様へ

入居者が退去する際に、もめる多くの原因が原状回復の問題です。平成10年3月に国土交通省(当時は建設省)から公表されました「原状回復のガイドライン」(平成23年8月に再改定)や東京都の「賃貸住宅紛争防止条例」(平成16年10月1日施行)の提示・施行にともない、各地で敷金の返金訴訟問題などが起こっています。賃貸を運営する中では、押さえておくべき要点です。

原状回復とは何か

国土交通省のガイドラインによると『賃借人の居住、使用により発生した建物は建物の価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること』と定義されています。


原状回復定義のポイント

  1. 賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超える使用による損耗は借主の負担となる
  2. 経年変化や通常の使用による損耗等は貸主の負担となる
  3. 貸主及び借主双方が合意して上記の内容と異なる特約を定めることができるが、原状回復の定義を超える内容のものは無効とされることがある

自然損耗や経年劣化による原状回復費用分は、毎月支払われる賃料に含まれている。



運用のポイント

一般的な対策として下記にその内容を述べますが、専門の業者に聞くなど、社会情勢を把握し事前の対策を練る事が大切です。

  1. 賃貸借契約を締結する時に、賃借人に十分な説明がされていますか?
  2. 特約の内容が社会的に合意を得られる内容で、借主に正しく説明されていますか?
  3. 入居時に部屋の整備(掃除)をしっかりと行っていますか?
  4. 設備の使用方法などについて説明をしっかり行っていますか?

賃借人への事前説明を行い、また賃借人に入居時の部屋状況の確認を行ってもらう事により、トラブルの防止に繋がる



具体的な負担例

貸主負担と考えられる例

  1. 畳の表替え(裏返し)
  2. カーペットのヘコみや設置跡
  3. 壁に貼ったポスターや絵画の跡
  4. 日照による壁及び床の日焼け
  5. 日照や自然的なクロスの変色
  6. クリーニングで落ちるクロスのヤニ跡
  7. フローリングのワックスかけ
  8. 家電によるクロスの電気ヤケ

借主負担と考えられる例

  1. 家具等によるフローリングのキズ
  2. 手入れを怠ったことによる水回りの汚れ・カビ
  3. 通常の使用を超える汚れ
  4. クロスの汚れで、クリーニングなどで落ちない汚れ
  5. ペットによる柱・床などのキズ・汚れ
  6. 結露の放置によって拡大したカビ・汚れ
  7. その他通常の使用を超える又は善管注意義務違反などによる損耗・毀損

判例の動向

最近の判例や学説などを見ていますと、ガイドラインの考え方は確立されてきています。また消費者保護法などの影響も無視できません。たとえ借主負担が認められても、その効果には制限が与えられる場合もあります。また契約時の状況や争点の内容により判断が難しいケースもあります。専門家のアドバイスを聞いて、事前に対策を立てる事をお勧めいたします。

判例1 消費者契約法10条を適用し原状回復に関する合意を無効とした事例
     (東京簡易裁判所 平成17年11月29日)

趣旨

“賃借人の通常の使用による損耗について、補修費用を賃借人が負担する”とした特約についての争い。

裁判所は、特約そのものは契約の自由の原則に照して有効であると認めるが、賃借人に予期しない負担を課するには、次の点を考慮する必要があると明言する。

  • 契約書の条項自体に『賃借人に予期しない特別の負担を課することになる通常損耗の範囲』が明記されているか
  • 仮に明記されていない場合は、口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し合意したものか

結論

通常の使用による損耗を賃借人の負担とする特約は、賃借人がその旨を明確に認識し合意を行い、又契約書の文面にもその旨が具体的に記載されていないければ、その特約を認める(成立させる)ことはできないと判断した。

判例2 借主の負担すべき費用の内、経過年数を考慮し費用の減額が成された事例
     (東京簡易裁判所 平成14年7月9日)

趣旨

賃貸借契約書に明記されている“明渡し後の室内建具・襖・壁紙の破損・汚損を 賃借人の負担とする”特約の賃借人の原状回復費負担の争い。

  • 一般的に契約書に明記されていても、賃借人が入居当時の状態に回復すべき義務は無いと判断される
  • 賃貸人は自然損耗の回復費は賃料で回収していると考えることが合理的である

結論

『賃借人の故意・過失・通常でない使用をした場合の損害以外を認めることはできない』という判断が成された。

判例3 消費者契約法10条を適用した、原状回復の合意を無効とした事例
     (平成17年11月29日)

趣旨

賃借人が明渡し時に負担するとした自然損耗等についての合意は有効であるかどうか、という争い。

  • 賃貸借契約書には、賃借人の通常の使用による損耗の原状回復費を負担することを定めている
  • 通常の損耗費用を賃借人に負担させることは、賃料負担と原状回復費負担の二重負担を強いることで、貸主に不当な利益を生じさせ、借主には不利益なこととなり信義に反すると考えられる

結論

賃借人が不利な契約内容であることを理解し、不利な義務を負うことを認識しない限り合意は認められず、消費者契約法10条により無効となる、と判断された。賃借人に必要な情報を与えないと、自己に不利益であることは認識できず、その状況で締結された契約は無効である、ということである。

※『通常の使用による自然損耗等は賃料が回収している』とする考えが主流であり、賃借人の二重負担は社会通念上不合理であるとされています。